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青森地方裁判所五所川原支部 昭和27年(ワ)77号 判決

原告

成田なよ

被告

高橋米太郎

主文

1  被告は、原告に対し、四四、九〇六円及びこれに対し昭和二八年一二月九日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告その余の請求を棄却す。

3  訴訟費用は、三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4  この判決は、原告において、一〇〇〇〇円の担保を供するときは、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

一  証人成田藤太郎の証言(第一回)により真正に成立したものと認める甲第一号証の一、二成立に争いない同第三号証に右成田証人(第一、二回)、証人高橋義雄の各証言、原、被告本人の各訊問の結果(但し、高橋証人及び被告本人の供述中後記採用しない部分を除く。)を綜合すれば、つぎのとおりの事実を認めることができる。

原告居宅は、被告居宅に隣接しているものであるところ、昭和二七年四月頃から敷地の境界につき紛争が起り、爾来原告家と被告家とは相反目してきた。昭和二七年一〇月一七日午前五時半頃、被告が庭先で作業していたところ、原告の息子訴外成田藤太郎から、籾の埃が自分の方の井戸に入つてこまるから気をつけてくれと咎められた。しかるに、前述のように、両人はかねがね仲違いしていたところから、右藤太郎の苦情が原因となつて喧嘩となり、その際、被告は原告居宅入口附近で、持合せていた混棒で、藤太郎に加勢した原告の頭部を殴打し、因つて前頭部割創兼脳震盪症の傷害を蒙らしめたものである。

右認定に反する証人高橋義雄の証言、被告本人の供述の各一部は採用することができず、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

二  よつて、被告は、右不法行為によつて原告に生じた損害を賠償する義務があるというべきであるから進んでその範囲数額につき考える。

前出成田証人の証言(第二回)によつて真正に成立したものと認める甲第二号証の一ないし一八に右成田証人の証言(第一、二回)及び原告本人の供述を綜合すれば、原告は、右被告の殴打により受けた創傷を治療するため医療費として合計七、八五六円を支出し、また、自宅から五所川原市内の病院に通院することができないため加療中一五日間に亘り五所川原市内に間借りし、その謝礼として三、七五〇円を支出したこと、原告は右傷害をうける前は自家の農耕に従事することができたが、その加療中人手が足りなくなつたため、手伝人を雇い入れその賃銀として二、八〇〇円及び馬半日分の借賃五〇〇円合計三、三〇〇円の支出を余儀なくされ、また、これが必要であつたことを認めることができる。右認定に反する証人高橋義雄の証言、被告本人の供述は採用することができず、成立に争いない乙第一号証の一、二も右認定の妨となるものではない。その他右認定を左右するに足る証拠はない。

三  つぎに、原告が、被告に前示傷害を加えられたことにより精神上多大の苦痛を蒙つたことは明白であるから、その慰藉料の額につき考えてみるのに、前出成田証人(第一回)、高橋証人の各証言を綜合すれば、原告は六五歳であつて、農業を営む息子成田藤太郎に扶養せられているものであり、家族としては、右藤太郎のほか同人の妻子六名があること、右藤太郎の財産として宅地一〇〇余坪、居宅、田畑合計約一町及び山林約一町があり、年収米七五俵であること、被告は、四二歳で、農業を営み、家族は妻子三名及び母を有し、財産並に生活の状況はほぼ原告と同様であること等の事実が認められ、これに前認定の諸事情を斟酌すれば、原告の精神上の苦痛を慰藉するに足る金額は三〇〇〇〇円を以て相当であると認める。

四  よつて、被告は、原告に対し、合計四四、九〇六円及びこれに対し訴状訂正申立書送達の日の翌日である昭和二八年一二月九日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による損害金を支払う義務がある。従つて、本訴請求は右の限度において正当として認容すべきも爾余の部分は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条の各規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本聖司)

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